「異装」という、かつて存在した出版文化について  竹久夢二の本

Bonjour.

著者が書き連ねた原稿が編集者により校正され、問題が無ければ印刷に回され、そして表紙をこしらえて製本された後に、本は出版という過程に到着して消費者の目を楽しませます。出版物はという概念で部数が管理されており、例えば最初に1,000部出版されたとしたならば、それが最初の版と言う意味で初版と呼ばれます。最初から売れることが期待されるような作品であれば10,000部でも100,000部でも出版され、それらも全て初版となります。在庫が無くなりそうになると、再度特定の部数の印刷製本を繰り返して二版、三版と版を重ねていきます。これを重版と呼びます。岩波文庫から出版されている名著ですと数十年の単位で重版されて五十版なども少なからずあるかと思います。

前置きが長くなりましたが、今回はこの重版になる際に時折発生したある現象についてお話させて頂きたく存じます。

 

※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。

 

 

異装」と言う言葉を耳にしたことがありますか?聞いたことがあるとするなら、古書(少なくとも昭和以前)を熱心に漁り続けている方と推定されます😂 異装と言っても、もちろん奇抜な服装のことじゃないですからね笑! 都合よく、書斎に異装を説明する良いサンプルがありました(竹久夢二著 三味線草 大正4年刊行 新潮社)。左が初版で、右が十三版です。十三版ということは12回重版されたということです。夢二が当時から相当な売れっ子であったことが如実に窺えますね😁 帙は本来、和綴じ本という今とは異なる製本様式があった時代に作られた本を保管する箱のようなもので、明治大正頃まではこういった洋式スタイルの本にも使用されることがありました。で、異装って一体何なのという話に映ります◎

 

これが異装の正体です。現代ではよほど特殊な例でもない限りは、重版で装幀が変わるということはありません。動画でも説明している、数年後数十年後に人気のタイトルなどをサイズやレイアウトなどを見直したのちに出版する新装版か、内容そのものの変更や加筆などが生じて新たに出版し直される改版を除き、装幀が一新されるケースは極めて珍しいと言えます。どのようなケースで異装が作られたのかまでは私にも分かりませんが、少なくとも重版をかなり重ねた、すなわちそれなりのセールスを記録した際に検討されたと考えるのが自然でしょう😀

 

 

外側の帙だけでなく、中に挿入されている七枚の多色刷り木版画も一新されています🙄 現在であれば適当な絵を7枚こしらえてデジタル処理すればそれほど手はかかりませんが、当時は量産の手段が限られており、今回の場合のようにわざわざ木版の版を新たに7枚(表紙と合わせると8枚)彫り上げて一枚一枚出版する本の冊数分刷る訳ですから、手間だけで考えると100倍は下らないと思います😂笑。もちろんコストも馬鹿にならなかったと思いますが、それだけ一冊の本に対する価値観というのが現在と大きく異なっていたことを示す分かりやすい例なのかもしれませんね😀

 

おわりに

異装とは多少意味合いが異なりますが、最近でも装幀が一冊一冊違う本という、事実上の一部本的なものが出版されたようですのでご紹介しておきます。→世界の紙を巡る旅

こういった本があると、出版文化も滅び去ったとまでは言えないのかな~なんて思ってちょっぴり期待しちゃいますね😁 デジタルの海に食傷した後には、五感で感じる本が少しでも見直されると信じて疑いません。以上!

 

 

動画の全編は下記となります。ついでにチャンネル登録もらえたら嬉ちーなと思うこの頃です。

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