Bonjour.

日本においては、蔵書票よりも「蔵書印」または「蔵印」が、長らく本の所有者を証明する手段として使用され続けてきました。厳密には、後漢時代の中国より送られたとされる「漢委奴国王」の金印が日本最古とされていますが、実際に押印して使用したかについては、専門家の間で未だ議論が続いているようです。いずれにせよ、書類の決裁などで、現在も大活躍の印章(ハンコ)は、その昔、本の所有を示す際にも度々押印されていたのです。

※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。


まずは坂口安吾著「教祖の文学」より。小林秀雄を認めつつも、安吾らしい猛毒舌で結局はこき下ろす痛快随筆です。「小林」の印は、恐らく単なる認印で、どこの小林さんであるかは不明です。蔵書印の大半は、このように無個性のものが使用される場合が多いので、本の所有者を導き出すのに難儀します。反面蔵書票は、紋章や意匠がヒントとなり、特定の個人まで追いかけられることも少なくありません。

お次は山田一夫「夢を孕む女」。知る人ぞ知る、京都派?の作家です。小穴隆一による装幀が秀逸なんですよね。「雪郎蔵書」と正方形の画面に篆刻されています。雪郎さんは著名な蔵書家だったそうですが(書斎のお客様談)、現在はその殆どが散逸してしまったようです。ただ著名とはいえ、市井の人には違いありませんので、世間一般の方々が「ああ、あの人ね」と印章のみで認識出来るような人物ではありません。この○○蔵書というスタイルは、蔵書印の中では割合とオーソドックスです。

最後に紹介するのが、芥川龍之介の短編小説集「湖南の扇」です。「武羅夫文庫」の蔵書印が、表裏の見返しに押印されています。文芸評論家・作家であった中村武羅夫は、主にプロレタリア文学との文学論争の際に、芸術主義側の首領として弁を奮っていたようです。一方で「ぶらふ」なんて、随分と不名誉なニックネームをつけられていたようです。小説も幾つか上梓しておりますが、大半は絶版になっています。こちらは所有者が完全に特定される、珍しい印章です。

おわりに

実のところ、蔵書印はアジア発という訳ではなく、それらに類するものは古代メソポタミアやエジプトで、既に実用されていたそうです。一方で、これまでお話してまいりました蔵書票についても、寺の蔵書を管理する手書きの票が、江戸時代には存在していたことから、必ずしも西洋が起源と断定することは出来かねるのです。そもそも人類の起源を辿れば、我々も単一の種族と言えなくはなさそうですから、考えることも必然的に近似することがあるのかもしれませんね。それではメルシー、アビアント、ボンジュルネー!!!

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LE PETIT PARISIEN

(恐らく)日本で唯一の活動をしています。

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