Bonjour.

現在作られている蔵書票は、ほぼほぼそれを所有している人の名前が、何らかの形で記載されています。そうでもないと誰に帰属している本か原則分かりませんから、当然と言えば当然です。ただし大昔の西洋では「紋章」という、個人を指し示す印のようなものが存在していた関係で、必ずしも蔵書票に自身の名前を記さなくとも、その役割を果たすことが出来た時代がありました。問題は、紋章を所有している人間以外がそれを目にしたところで、あーあの人ねとは中々ならないという点です😂先人達によって、ある程度無記名の紋章型蔵書票の解明も進んでいるのですが、未だ所有者が特定されないものも数多くあります。前置きが長くなりましたが、そういった類の蔵書票はアノニマス・ブックプレートと呼称されます。アノニマスとは、匿名、すなわち個人が特定されていない状態を指す言葉です。今回は書斎の蔵書に貼り付けられているアノニマス書票を紹介します。

※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。

冒頭で説明した通り、真ん中に紋章が刻まれているものの個人名が入っていないので、一体誰が所有していた蔵書票なのか皆目不明です。特定の一族を表す日本の家紋と異なり、紋章は同じ親を持つ長男次男でも違うデザインでなければならないといった鉄則を持っています。したがって、所有者は分からずとも、蔵書票としての用件は成立していると言えるのです。それによくよく考えてみると、かつての蔵書票は一族やその他関係者を除き、一般に公開するようなものではなかった訳で、本格的に研究が始まってから所有者を調べる必要に迫られただけに過ぎないのです。現在のように交換したりコレクションしたりといった文化もなかったはずですので。

もうほとんどの国で爵位制度は廃止されていると思いますが、かつては日本でも華族なんかが爵位を保有していました。また公爵←侯爵←伯爵←子爵←男爵と爵位の中でも順位付けがされていました。爵位って要は名誉の称号みたいなもので、私は専門家ではありませんが、とにかく英国などでは爵位を持っているか否かで、周りの対応が劇的に変容した時代もあったようです。それと爵位ごとに紋章にデザイン出来るコロネット(王冠)の形も厳格に決められていて、今回のものは調べたところによると侯爵冠がヒットしました。しかも爵位ごとに割り当てられる王冠のデザインそれ自体も国ごとに異なるようで(くっそややこしい。。)、今回の冠はフランスの侯爵冠でした。貼り付けられている本が、フランスで1726年に出版されたMarie Anne Barbierの詩およびレビュー集なので、この蔵書票もフランス人のものであると断定して間違いないかと思います。

もう一つ注目に値する点が、真ん中の紋章にデザインされている要素。紋章の上部がPassant(ライオンが右の前脚を上げて移動しようとしている形)、下部がChecky(市松模様)で構成されています。ここで紋章学の話をしても仕様が無いので詳しい部分は割愛しますが、原則として紋章は時代が遡るほどデザインが単純化します。逆に言えば、時代が進むほど複雑化するということです。で今回のものはと言うと、はっきり言って滅茶苦茶単純です。18世紀に新たに誕生した侯爵家ということであっても、いきなり庶民が侯爵に叙せられることは私の知る限りありません。男爵子爵と、功績を作って順を追って爵位が上がっていくのが基本です。それに爵位が変わっても紋章のデザインが変わることは無いので、そういったことを勘案していくと、18世紀に存在した侯爵の持っている紋章がそんな単純なわけねーだろ!ということにならざるを得ないのです。といったわけで、この侯爵家の初代が最初に作った紋章ではないのか?というのが私の見立てです。

おわりに

あー紋章の話するとキリねーわぁ。。😂😂笑 数少ない読者の方々には本当に申し訳ないと思いながら今回の記事も書いているんですけど、やっぱり歴史的な蔵書票を題材にする上では紋章の話抜きにして語ることはまず不可能です。だって考えてみてください、蔵書票の歴史より紋章の歴史の方が圧倒的に古いので。なんでこの記事をご覧になって不明な個所や、それ違くないといった指摘まで色んなコメントがあったら嬉しいなぁと心から思います。

最後に、右脚が前に出たライオンを示すPassantは英語として登録されていますが、実際には中世フランス語です。紋章は、11世紀のノルマン人によって英語圏である英国に持ち込まれたというのが通説です。ただし英国を征服したノルマン人たちはフランス系の人々だったので、当時話されていたフランス語がそのまま紋章の言葉として英語の中に残っているという不思議な現象が起きています。ちなみに現在のフランス語でPassantは、単なる「通行人」という意味です。あ・びあんと💛

動画の全編は下記となります。ついでにチャンネル登録もらえたら嬉ちーなと思うこの頃です。

LE PETIT PARISIEN

(恐らく)日本で唯一の活動をしています。

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