Bonjour.
日本における筆写の道具は、言わずもがな「紙」です。昨今はパソコンが新たな媒体として流通して いるものの、実態は打ち込まれたデータに過ぎない訳で、厳密な筆写とは言いがたいでしょう。一方西洋においても紙は長らく愛用されてきましたが、それとは別に紙ではない、しかしながら紙と呼ばれている謎の道具が、現在に至るまでに使用されてきました。その名も「羊皮紙」です。えっ羊の皮の紙って、どういうこと?って思いませんか??誰が名付けたのか知りませんが、私からすれば完全な命名ミスです笑 とにかく今回は、この紙とも皮ともつかない不思議な加工品に関して紹介してまいります。
※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。
紀元前より、この皮で作った羊皮紙が使用され始めたと、古代の粘土板や石碑の記録に残っているそうです。私の知る限りにおいても最古の羊皮紙は、現在のヨルダン川周辺にて発見された「死海文書」です。巻物の形で洞窟の壺の中に投げ込まれていたものを、羊飼いの遊牧民が発見したとされています。約一世紀頃に作られた聖書の写本とされるもので、数ある聖書の写本の中でも最初期に記録されたものと思います。それでも約二千年前の文書ですから、いかに羊皮紙が耐久性に優れていたことが分かりますね。
紙の文化は、シルクロードを通じてヨーロッパに伝わったとされています。何故ここまで伝わるのに時間がかかってしまったのかについては私も分かりかねるところですが、一つには紙の生産地であった中国が長らく異民族に支配され続けたりその後転覆したりと、社会の安定に欠いていたことが考えられるように思います。まぁヨーロッパも不思議な世襲制度のせいで内乱が起こったりしていたので、いずれにしても社会基盤がしっかりしていなかったことが原因の一つと分析します。
それとwikipediaに書かれている、13世紀~15世紀頃より紙が使用され始めたとの記載には、注意してください。少なくとも13,14世紀にヨーロッパで作られた紙を、私は一度も目にしたことはありません。恐らく羊皮紙に比べて劣化が早かったことから、ほとんど現存していない可能性も考えられますが、仮に製紙技術がこの時期に確立していたなら、多くの紙の文書が残っていても良いはずです。スペインやフランスでは13世紀頃より製紙の工場が作られたとの記載も見られますが、実態のほどは聊か不明です。
羊皮紙に触れたことがある方は(特に日本人の中では)極めて少ないと思われます。日本ではその歴史上、羊皮紙を生産して使われてきた機会というものが皆無だったはずでので当然といえば当然です。むしろ、自由に触れるうちの空間がおかしいんです笑 ちなみに、触ってもらった方たちの一般的な感想は「皮で作られたとは思えない」です。紙よりパリッとした硬さがあるのが特徴ですが、実際紙と比べて劇的に異なるとは私自身思っていません。
今回紹介しているのは19世紀の契約書ですが、それ以前、例えば活版印刷が始まる前のヨーロッパでは、手書きの文書を一つの冊子にまとめたもの(写本)のページは、原則羊皮紙に書かれました。先ほども言及したとおり、羊皮紙は紙に比べて耐久性に優れていた、そして冊子の多くは聖書に関する本だったので、宗教上重要な文書がたやすく劣化してしまうといった事態をなるたけ回避したかったことも、皮が長らく使用されてきた所以と思います。それだけ宗教が、人々の生活と密接に関連してきた証左かもしれませんね。
美術作家が作品制作の材料として羊皮紙を使用する他、ファクシミリ版と呼ばれる日本で言うところの復刻版を制作する際にも、羊皮紙が必要となるケースがあります。当時羊皮紙で書かれた本を復刻する際に、内容のみにとどまらず使用する書写の道具まで復刻したい場合には、必然的に羊皮紙の需要が産まれます。ファクシミリ版は、原則個人よりも特定の大学図書館などが研究資料として、公費で購入することがほとんどです。個人購入も可能ですが、ものによっては数百万のキャッシュが求められるので、それでもどうしても欲しいという方は私に相談下さい☺(いるわきゃないですね) ではでは。
参考までに、死海文書の写真
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