Bonjour.
画家が本の装幀に携わる機会というものが、特に戦前の日本を中心にありました。売れない画家が露命を繋ぐために始めた装幀の仕事が、結果として本業になってしまったなんて場合もあるくらい、画家と装幀は身近な関係でした。その代表的な画家の一人に、棟方志功があります。木版画家として一世を風靡し、現在も信じられないほどの高値で取引されている志功の作品は、本の装幀でも楽しむことが出来ます。その中でも、今回紹介する「脳室反射鏡」は、彼の傑出した才能を垣間見る良作と思います。
※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。
本の著者は、式場隆三郎。精神科医として、千葉の市川で自ら創設した病院を運営していました。(現在も精神科専門の病院として、運営を継続しています) 棟方志功と知り合った具体的なきっかけは不明ですが、両者が共に関係していた「民芸運動」が、その橋渡となったと思われます。(詳細は、動画の後編をご覧ください。) 表紙・見返し共に、志功による多色刷りの木版画です。小さい画面ながらも、志功独特の力強く迷いのない刻線が、十二分に看て取れます。
棟方志功の装幀でまず連想されるのは、谷崎潤一郎の「鍵」です。鍵は、谷崎晩年の代表作で、自らの妻をわざと他人に委ねる偏執狂の話です。内容が私の好みにそぐわないので、書斎には設置していません笑 神保町の東京古書会館で毎週末実施されている本の即売会で、この本を5,6回は目撃しましたね。気軽に志功の装幀を楽しみたい方には、お勧めの一冊です。「谷崎潤一郎 鍵」と検索すれば、ヤフオクやメルカリ等で少なからずヒットすることと思います。
式場隆三郎は単なる精神科医に留まらず、ゴッホやロートレックの研究者としても、重要な位置づけを与えられています。彼の本職である、冷静かつ緻密な精神鑑定の側面から、彼らのような生活破綻者達によって描かれた作品群を分析しています。美芸術の領域ではないスキルを活かした美術評論というのは、日本史上で式場が初めてなのでは?と思います。文章もわりあいと平易で、現代人でも理解に易いのも、専門家らしからぬ式場の評価できる部分ですね。
テレビドラマ「裸の大将」で周知され、モデルとなった本人も切り絵作家として大いに評価された「山下清」を発掘したのは、外ならぬ式場であったと言われています。彼の病院内で実施された「狂人の絵」展で、式場は山下のことを称賛しています。実際、公私ともに山下と交流を持ち、いつか山下と式場が同じ浴場の湯舟に浸かっている写真を見たことがあります。山下を最初に世間一般に紹介したのは、式場の著書「二笑亭奇譚」と考えています。その中で式場は「白痴青年」と山下を評していますが、決して差別的な態度からではなく、当時はそういった言葉に差別の意識が含有されていなかっただけに過ぎません。ちなみに私からすれば、差別用語などを作り上げた人間達の方が、式場なんぞより差別的です。そんな訳で、今日はここまで!!!
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