音楽票? 蔵書票の亜流、ないし進化系?

Bonjour.

これまで散々、様々な切り口にて蔵書票を解剖してまいりましたが、今回はちょっと趣向を変えて、音楽票?というものに焦点を当ててみたいと思います。音楽票は蔵書票の一形式といったものとされており、主に「楽譜」などに貼り付けられていたと考えられているようです。とは言うものの、本音を言えばにわかに信じがたい部分もあったりして、なるたけ確信的な言及は避けたいところなのですが、今回のみ、音楽票という前提のもとで説明を加えてまいります。私の疑念の根拠は、結びの言葉に綴ります。

※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。

一見、これまで紹介してきた蔵書票と何ら変わりない造形に見受けられます。サイズも8cm×10cmと、標準サイズです。技法は、西洋ではお馴染みの銅版画(エッチング)となります。年号は書かれておりませんが、1784年に制作されたことが分かっています。票主(蔵書票の持ち主)は。。。こちらは最後に譲りましょう。今答えてしまうと、色々と不都合が生じるので汗

ラテン語のMUSISには「音楽」「ミューズ(技芸の神々)」などの意味が含有していると考えられることから、音楽票である可能性が示唆されます。樋田直人氏の「蔵書票の美」によると、EX-MUSICVS(音楽家の意)と刻まれている票などが、音楽票に該当するとの記載があります。ちなみにこちらの記載が、音楽票が存在するとされる唯一の根拠です。

AMICISは「友人たち」の意で、こちらの文言から一つの持ち物を複数人で共有していた、すなわち今回で言えば、楽譜等をそのような形で管理していたことが推測されます。約500年前の銀行家であったジャングロリエが所有していた本の表紙には、「Grolier et Amicorum(グロリエと友人たち)」と箔押しがされており、事実、友人たちで晩餐を終えた後、本の貸し借りの時間が設けられていたと、グロリエの友人の一人が回想している本があるそうです。本が一個の資産であった時代に貸し借りなど行っていたとは到底考えにくいのですが、金満家グロリエにとってはさしたる問題ではなかったのかも知れませんね。

左の人物が「ミネルヴァ」、ギリシャ神話では「アテナ」と呼ばれる女神であり、神話に登場する女神の中でも、特別尊敬を払われている処女神です。そういった事情もあってか、一般の絵画のみならず、蔵書票においても頻繁に見られるモチーフとなっています。右はデメテルで、作物などの豊穣を司る女神です。実はギリシャ神話の中でのデメテルの立ち位置が良く分からないので、詳しいことが知りたい方は、専門書を紐解いてみてください。左下のフクロウは知恵の、右下のブドウの房は豊穣の象徴です。

蔵書票の作者は、ヨハン・ルドルフ・シェレンベルク。昆虫学関係の本に入れた版画挿絵で知られているそうです。この時期は博物学関係の本の出版ブームだったので、彼もそこに貢献した一人に数えられるのかもしれませんね。制作年は、1784→1786年の間違いでした。

シェレンベルクの詳細は、こちらのwikiを参照ください。英語 https://en.wikipedia.org/wiki/Johann_Rudolph_Schellenberg

おわりに

音楽票?の可能性を感じさせる紙片に関して言及を進めてきた訳ですが、実はこちらの作品、音楽票ではありませんでした!(すいません) このトピックを書きつつ調査を進めていたところ、判明しました。実際には「シャフハウゼン図書協会」という団体のために制作されたもののようで、だからAMICISが入っているのかと、一人納得した次第です。協会内で共有してる本ですといった意味合いを込めた文言だったのでしょうね。

冒頭で申し上げたように、私は音楽票の存在を疑問視しています。そもそも、楽譜に所有者を示す票が貼り付けてあるといった実例を耳にした試しがないのと、音楽関係の仕事に携わる人物が、自身の職業を示唆するために、EX-MUSICVSといった表現を使用したのではないかと、推察しているからです。以前のジャーナルでも申し上げているように、蔵書票を示す文言はbook-plateやEX-LIBRISに限らず、EX-BIBLIOTEQUEや、中にはEX-EROTICS(官能票?)なんてものまであるのです。音楽票に言及した洋古書なんて、ついぞ目にした記憶がありませんしね。したがって、音楽にまつわる文言があるからといって、安易に音楽票と定義するのは、早計に過ぎると愚考します。あ、勿論自嘲してるんですよ笑 それでは、さよーならー。。。

参考までに、途中ご紹介しましたグロリエ製本の画像を添付します。表紙の真ん中に「Grolier et Amicorum(グロリエと友人たち)」が刻まれていますね。

 

興味がございましたら、youtubeのチャンネル登録にご協力頂けますと幸いです。動画の全編は下記となります。ご参考までに。

LE PETIT PARISIEN

(恐らく)日本で唯一の活動をしています。

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