Bonjour.
一般に、西洋由来の蔵書票が日本に紹介されたのは明治時代後期、雑誌「明星」の中においてとされています。しかしながら、そこから放射状に蔵書票が広まったなどといった記録は無く、それどころか現在に至るまで、ごく一部の作家と好事家を除き、認識されてはおりません。そんな訳で、今回の動画が書票の裾野を広げる一助になればなぁ、と淡い期待を抱いています。
※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。
一冊目は、「煙草放浪」。水曜荘刊行会から出版された、100部限定本です。著者は木村喜久弥。職業不詳ですが、ネットで調べると、猫研究者として猫がらみの著作を多く遺していることが分かりました。きっと、どこかの高等遊民でしょう。それはさておき、こちらの蔵書票は多色木版画刷りの一作。書票の右下にK.KIMURAと、彼のイニシャルが彫り込まれています。おもむろに燐寸に火をつける女性は、彼の細君か愛人か知る由はありません。書票は1950年頃に制作されたもので、作者は宮本匡四郎。確か千葉に小さな美術館があったはずです。
お次の蔵書票も水曜荘出版、「探偵・旅・書物」。こちらは先ほどと異なり、一つの版木で作成した質素な蔵書票です。「すいよう荘」と、票主(本の所有者)名が個人の名前ではなく出版元の名称で彫られています。私も自らの蔵書票を作ったり、あるいは作って頂いたりする際には、個人名を避け、LE PETIT PARISIENの屋号を所有の証明としています。ありふれた私の名前よりも、日本では珍しいこちらの屋号を使用した方が、所有者の特定には有効だろうとの判断からです。
最近の蔵書票は銅版画、特にエッチング(+アクアチント)が主流です。固い銅板に刻むことで生まれる、繊細で優美なアプローチが好まれているように思います。先に紹介した木版画は大胆な表現が可能な反面、何となく野暮ったい印象を与える部分があるのかもしれません。一方で、現在作られている銅版画蔵書票は、その殆どがハーネミューレと呼ばれる厚紙に刷られているので、蔵書に貼り付ける用途には適していません。ま、それぞれ一長一短あるのです。蔵書票に何を期待するかが肝要です。
西暦2020年現在においても、日本人で蔵書票を制作している作家は、僅かながら点在しています。ただし、技法が問われない蔵書票は、継承していくような伝統技能ではありません。また、デジタルブックがより浸透していけば、蔵書票の意義が根底から覆されるでしょう。私としては、大量に生産する蔵書票の在り方の見直しと、作家か否かは関係なく、本の所有者が自ら票を制作する意識を持つことが、この状況への活路になればと、やはり淡い期待をしています。ま、結局は地道にやるしかないんですけどね!(愚痴じゃないよ) それでは、さよなら、さよなら、さよなら。
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