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私はベルサイユのバラの愛読者でも何でもないのですが、このマニアック至極なジャーナルをご覧になっている方で、一ファンと自認している方がいらっしゃるかもしれません。この作中に登場するデュ・バリー夫人というキャラクターは、非常に高慢な女性として描かれており、マリーアントワネットとの対立は歴史的に知られています。ちなみに漫画のみならず、現実のフランス革命においても、彼女は王党側の重要人物です。今回は、彼女が所有していたとされる銅版画の蔵書票を紹介します。

※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。

蔵書票のスタイルとしては最もオーソドックスなものである「紋章型」のデザインで作られています。正式名称は「盾形紋章」で、中世の武具であった盾に紋章を描きます。左がデュ・バリー子爵、右がマダム・デュ・バリーの紋章です。楕円の盾は通常「聖職者」に用いられる形状で、女性に宛がわれる紋章のほとんどは、菱形(ロズンジ)が採用される傾向にあります。他にも盾の形状によって、スペイン式やフランス式といった分類がなされます。

夫婦の紋章を並べて配置する形式を、「ダブルプレート」ないし「ジョイントプレート」と分類した研究者が過去にあったのですが、現在に至るまで明確な定義はなされていません。私の調べたところによると、こちらのスタイルは主に18世紀ごろに多く作られた模様です。フランス革命後の19世紀以降は、女性独自の蔵書票がほぼほぼ一般化しました。

紋章を取得している者=貴族と思われがちですが、実際にはそうとも限りません。卑しい身分の出自であっても、何らかの商売で一山当てて財を成した人物が、然るべき機関(英国だと紋章院)に申請し、紋章の使用許可を得たケースもありました。一方デュ・バリー夫人の紋章は、使用許可を得ないままに適当に制作した可能性があります。先ほども申し上げたように、女性の紋章で楕円形の盾を使用することは、まずもって無いと言えるからです。それと仮に正式な紋章であるとしたなら、夫の紋章の要素がどこかに含まれているはずです。(例えば三本入っている横棒など)

モットーは、紋章とセットで配置されることが少なくありませんでした。しかも、配置される場所は必ず「盾の下」と、正式に決められていました。boutez en avantを直訳すると「前に進め」といった意味になるかと思います。動画内でも言及した通り、この書票以外では見たことのないモットーです。気になって少し調べてみたところ、どうやらバリー家特有のモットーであるようです。なるほどと得心した次第です。ちなみに、モットーの殆どは、ラテン語で記述されます。

おわりに

フランス革命時、処刑台へと送られたデュ・バリー夫人は、最後まで狼狽の色を隠さず人民に慈悲を乞うたそうです。画家のルブラン夫人が「処刑台に送られた人々が、あれほどまでに誇り高くなかったなら、デュ・バリー夫人のように命乞いしていたならば、革命はもっと早く終わっていたかもしれない」と興味深い言葉を残しています。ギロチンにかけられた純然たる貴族達とは異なり、貧しい家庭で育った彼女は、誇り高さと無縁の生涯であったのかもしれません。

興味がございましたら、youtubeのチャンネル登録にご協力頂けますと幸いです。動画の全編は下記となります。ご参考までに。

LE PETIT PARISIEN

(恐らく)日本で唯一の活動をしています。

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