Bonjour.
2020年8月29日まで私の書斎LE PETIT PARISIEN(ルプチパリジャン)にて開催しておりました、「で装幀って何?」展において、異彩を放っている本があります。こちらは現在書斎内で最も古い本で、1540年に刊行されたものです。詳しい書誌(本の情報)は分からないのですが、序文がラテン語・本文はギリシャ語で書かれています。タイトルは「クセノフォン全集」。クセノフォンはソクラテスの弟子にあたる人物で、プラトンと共にソクラテスの言行をまとめた人とされています。
※※必要な部分のみ切り出して紹介しておりますので、途中から動画が始まっている場合がございます。まずは動画からご覧になり、補足をお読みください。
活版印刷が普及する以前の、特に手書きの本(写本)の時代は、本にタイトルがついていませんでした。これらの本の冒頭は、INCIPIT(始める、開始するの意のラテン語)という動詞から始まるのが一般的で、その後に続くいくつか単語を便宜的に本のタイトルとして設定していたようです。例えば、Incipit carmen Virgilis arma virumque cano であれば、「アルマ・ウィルムクェ・カノーで始まるウェルギリウスの詩」となり、これが現在で言うところの本のタイトルに相当します。(wiki参照)。いつ頃からこのような管理の仕方が普及したのかについては、定かではありません。恐らく箔押し(熱したコテで文字や装飾を押し込む技術)の技術が一般化した後に、現在に続くタイトルの概念が本格的に生まれたと推測しています。
著者はクセノフォン。クセノポーンとも読むらしいですが、ギリシャ語は学生時代、早々に投げ出したので何一つ覚えていません。師匠の思想を追想した「ソクラテスの思い出」の著作が有名です。ちなみに最近知人の女性に聞いた話ですが、ソクラテスはかなり粗暴な人物だったらしく、論争の際も相手に殴りかかったりして腕っぷしは随分と強かったようです。ちょうど戦争の折だったのか、そういった人物は好意的に受けとめられていたらしいです。
少々見づらいですが、表紙の中央に洗礼者ヨハネと洗礼を受けるイエスが空押しされています。こういった宗教的モチーフは、特に初期の装幀(15~6世紀)において顕著にみられます。ある種のテンプレートみたいなものだったと考えています。それと今回のように、装幀と内容が一致していない例は、西洋装幀の伝統です。印刷と製本が分業化されていたことも関係していると思われます。
表紙の素材は「豚革」です。豚も、古い装幀の中で頻繁に使用されました。17世紀ごろからは、牛やヤギの革に取って代わるのですが、恐らく豚特有の毛穴が汚らしく思われての交代ではないかと、私は推測しています。詳細をご存じの方、情報をお待ちしております。いかにも獣皮といった風合いで重厚感を覚えるので、私は嫌いじゃありません。
何が書いてあるのか皆目不明ですが、全集ですので、恐らく従軍日記として名高い「アナバシス」や先ほど紹介した「ソクラテスの思い出」などに多くの紙幅が割かれているように思います。昔の本は余白が多めに取られており、動画内でも見えるように、その余白部分にメモ書きをするケースが散見されます。現在で言うところの赤線引きみたいなものですね。
クセノフォンの著作は、岩波の文庫で何冊か出版されています。ご興味がおありの方は、ぜひ紐解いてみてください。ただし翻訳が恐ろしく古い可能性があるので、その辺は日本語の勉強だと思って我慢してください。古代ギリシャ語で読むよりはマシでしょう??それではさようなら。
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