Bonjour.
東京銀座の中央通り沿いを日本橋駅に向かって歩くと、国内屈指の老舗書店である「丸善日本橋店」が見えてきます。日本橋店の三階には、2011年にオープンしたワールドアンティークブックプラザ(WABP)が入っており、神保町の老舗古書店を凌ぐ貴重な洋書を数多く取り扱っています。書斎に時折いらっしゃるお客様より、先日こちらに珍しい装幀の一冊が入荷したとの情報を得て、早速足を運んでみた次第です。都合よく、写真撮影もOKでした。下がその実物です。
スタッフの話によると、十五世紀末のスペインで制作されたものとのこと。フェリペ二世?(間違えていたらすみません)のコレクションに、こちらと酷似した装幀の本があるそうで。計測はしておりませんが、恐らく60センチ前後の特大サイズでした。故意に取り外されたのか中身は空っぽ、ゆえに、どういった内容が書かれていたのかは推測の域を出ません。とは言え、五百年を超えた月日を経て、ここまで往時の姿を明瞭に残している装幀は、中々見られるものではありません。
表紙全体に使用されている白い部分の素材はヴェラム(恐らく子牛の革)、ヴェラムに刻まれた勅選と曲線は、型押しによるものです。その上から、真鍮と思われる金属でロータス(蓮)を形成し、真ん中を含めた計五カ所に配置しています。全てのロータスを線で結ぶと十字架になるのは、単なる偶然ではないでしょう。四隅の装飾も、花を模していると考えられます。見返し(表紙の裏側)には革で作られた楽譜が使用されていました。写真が無く残念。
ロータスや四隅の真ん中部分に、丸い突起があるのが分かりますか?これは「台」としての役割を担っており、こちら側の面を下にして本を保管していたことを示すものです。我々が現在所有している本は、本棚に立てて収納されるケースがほとんどですが、嘗て全ての本は平置きで保管されていたのです。ウンベルト・エーコ原作の映画「薔薇の名前」の中で、修道院の図書室に忍び込むシーンがあります。
こちらですね。舞台は14世紀イタリアの修道院。何故平置きで保管されなければならなかったのかに関しては、別途動画で説明します。
60センチもある本をどうやって閲覧していたのか?もちろん、手に取って読んでいた訳ではありません。書見台と呼ばれる本専用の台を用意し、そこに掛けて閲覧していたのです。江戸時代の寺子屋の様子を思い出してください。子供たちが本を台にかけて読んでいたのを覚えていませんか?あれも書見台です。台を使用するのは、西洋独自の文化ではなかったのです。
ちなみにこちらの本、お値段にして210萬円也!!高いか安いかは、個々の判断に委ねます。それでは、メルシー、アビアント、ボンジュルネー!
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